ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~


何故だか、櫂がこんな顔をするとあたしは安心する。

完璧主義の櫂だから。

絶対切り抜ける気がするんだ。


何だか足が痛くて椅子に座った時、

煌がペットボトルの水を持ってきた。


勝手に拝借してしまったらしい。


「お前さ、一応女なんだから」


"一応"は余計だ。


「大事にしろよ、身体……」


煌はあたしの前にしゃがむと、

無骨な大きな手であたしの足を洗ってくれた。


煌はぶっきらぼうだけれど、面倒見はいい。


まあ、あの緋狭姉の弟子を長く続けていれば、苦労性の性格になるのかも知れないけれど、こうして面と向かって、しかも不平不満を一切言わずに、更に煌自らあたしに世話を焼くということはあまり記憶にない。



何だかいいご身分のあたし。


正直――照れる。



しかも何だろう。


煌の手の動きは。


ただ触れているだけなのに。

ただ洗ってくれているだけなのに。


羽のように軽く触ったと思うと、掌全体で触れてきて。

躊躇したかのように動きを止めたかと思うと、激しく足に触れて。


まるで熱を持ったかのように熱く感じるのは、


煌の手か、

あたしの足か。

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