ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
 

ふと――

横を見る。


大人しすぎる橙色。


玲様の結界の中にいるからいいものの、いつもの好戦的な眼差しはなく、偃月刀を手にしたままぼんやりと立ち竦んでいる。


「……煌?」


声をかけてみたが返答はなく。

ただ虚ろな顔のまま、俯いている。


考え込んでいるのか何なのか。


考えても解決など出来ないくせに、今度は何をぐじぐじ悩み始めたんだろう、この馬鹿蜜柑。


常日頃、その眩さが腹立たしい橙色は、くすんだ橙色になっても尚、やはり私にとっては、腹立たしいものでしかなく。


だから私は――



「――このボケッ!!!」



怒鳴って、脛を蹴らずにはいられなかった。


何ていう――

腑抜け様だろう。



私の様子に機敏に呼応したのは芹霞さんで。


芹霞さんは驚くというより、眉を寄せた神妙な顔で、我に返った馬鹿蜜柑をじっと見つめている。


芹霞さんもまた、何か考え込んでいるようだ。


「お、おまッッ!! 力加減ぐらいしろよッ!!」


そうぴょこぴょこと跳ね回るのは、いつもの馬鹿蜜柑で。


「……煌。煌は強いよね……?」


突然芹霞さんが、

思い詰めたような面差しで煌を見上げる。


「……あ?」


煌が不可解という顔で、芹霞さんの顔を見つめる。



「流されちゃ駄目だからね。

あたし、信じているからね?」


流される…?


芹霞さんは、

何を危惧しているのだろう。




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