ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~

 



――あたし神崎芹霞。よろしく!



櫂様が決して離さぬ女性。


……正直、苦手だ。



触れれば折れてしまいそうな華奢な身体なのに、逆にこちらが壊されそうな強い光を宿す魅惑的な黒い瞳。


やや直情径行気味だが、清清しいまでに颯爽とした姿。


本人は無自覚だが、美人だと思う。


他人のことは聡いのに、自分のことには病的に疎い。


何度櫂様は振り回されてきたのだろう。


完璧主義を遂行する櫂様は、彼女の前だと完全に余裕をなくす。


彼女は、それを判っていない。


櫂様が悪い虫がつかないよう、常に目を光らせている事実を知らない。


どうして櫂様が、そこまで夢中になれるのか、私にはよく判らない。


私が欲するのは、確かな力だけだから。


――桜ちゃん。やっぱり表情がなくて気持ち悪いよ?


出逢って何度目かで、彼女は私を見据え、失礼なことを言ってきた。



――そんなに櫂がこき使うの?


彼女は、突然不可解なことを口にして、あろうことか櫂様の胸倉掴んで、一方的に説教を始めた。


櫂様にそんな尊大な態度をとれるのは、そしてそれが許される女性は――此の世では、恐らく芹霞さんただ1人。


あの時は心底焦った。


――桜ちゃん。もっと我侭になろうよ。


何故彼女が、そこまで私を気にするのか分からない。


だだ、酷く――…


――桜ちゃん、ねえ桜ちゃん。


惨めだった。



弱い人間程、彼女に魅かれる。

闇を持つ人間程、彼女に魅かれる。


畏れもせず見据える黒い瞳に、自分の弱さが露呈されるから――だから苦手だ。
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