ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
 

一体芹霞さんは、何を考えているのか。


彼女が見据える褐色の瞳は、ただ訝しげに揺れている。


「芹霞?」


突然聞こえた櫂様の声に、芹霞さんが吃驚したようで、振り返り…よろけてしまったようだ。


櫂様が手を広げて抱き留める。


その光景は何度も見慣れているもので。


2人がその体勢で何を囁き合っているのか聞こえはしないけれど、多分にそれは恋人同士の甘い会話には至らないはずで。


あったとしてもそれは、

櫂様の一方的な言葉であるはずで。


それは日常光景の一部分。


背景の一部分。


今更、特別に語るべきものでもない。



だから私は――

玲様と共に戦闘に身体を動かした。


しかし、その戦闘に…橙色が混ざることがなく。


「働けッッッッ!!!!」


そう振り返った私は、息を呑んだ。




煌が――


櫂様を睨み付けていたから。





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