ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
 

褐色の瞳の光は鋭く。

櫂様に向かって真っ直ぐに。


真っ直ぐに向われる――


"敵意"。



私は驚き、手を止めてしまった。



煌が――馬鹿蜜柑が、主たる櫂様に反抗的な態度を向けたのは、これが初めてかもしれない。


嫉妬だ。

それも激しい嫉妬。



そして――


憎悪……?


この馬鹿は、

櫂様に憎悪を向けているのか。



私は――

嫌な予感を感じた。



「桜、手を動かすッッ!!!」



玲様の苛立った声に私は我に返る。


玲様は、故意的に櫂様と芹霞さんから背を向けて私の方に近づくと、


「……桜、先刻から煌がおかしい。

気をつけていて」


そう、耳元で囁いた。

 
やはり玲様も感じたのか。


"先刻"


私が気づく前からも、様子はおかしかったらしい。


「今、内輪揉めしたら――破滅だ」


玲様は、非常に固い声で言った。



そして――


睨んだまま立ち竦む煌に。

嫉妬と憎悪を露わにしている煌に。



一発――

鳩尾に拳を食らわせた。



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