ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~


「だから! 

友達以上じゃないかってこと!!」


荒げられた声の凄まじさに、あたしがびくんと反応した時、玲くんははっと我に返ったようだった。


「……ごめん」


何だろう。


玲くんどうかした?


疲労度MAX?



思わず立ち竦んでしまったあたしに、


「芹霞さん、後ろ危ないッ!!」


桜ちゃんの声。


動く櫂の気配。



それより――


「芹霞を護るのは


――僕だ」


玲くんの方が早かった。



玲くんは片手であたしを抱くと、反対の手で青光を血色の薔薇の痣(ブラッディ・ローズ)に放ち、霧散させる。


凄いや、玲くん…。


「あ、ありがとう」


あたしが笑顔を作って玲くんを見ると、玲くんは何も言わずあたしを痛いくらいに見つめ、そしてあたしの腰に回した手に力を入れてきた。


「玲くん?」


何かを訴えかけているような…鳶色の瞳。


玲くんの端麗な顔が、ぎゅっと…苦しげに歪められた時、


「――玲ッ!!!」


櫂の吠えるような怒声が空気を切り裂いた。



そして――。



「え……?」


解せないというような顔を横に一振りした玲くんは、あたしを引き寄せようとしていたその手を見て、驚愕に満ちた顔で手を引くと、険しい顔つきをした。


そして聞こえた。


玲くんの舌打ちの声。



「行くぞ……」



櫂はあたし達に背を向け、そう言った。

その素っ気ない様は、いつも通りでもあるけれど。


だけど――

あたしは見てしまったんだ。



櫂は…

これ以上ないくらい、

悲痛に翳った顔をしていた。


声をかけられないくらい、

それは苦しそうな表情で。


一体、皆どうしちゃったの?

心が…ばらばらに感じるよ…。



あたしは何だか不穏な空気を感じて、

思わず唇を噛みしめた。



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