ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
煌が顔を捩るように、こちらを向けた。
芹霞を抱きしめたまま。
「おいおい櫂。痴話喧嘩かよ? ほら、そこに見えるビルの地下だろう、元老院の隠れ家への入り口。お前ら先行けよ。こいつこのまま連れていけねえだろ?」
煌はまっすぐとした瞳で、俺に言った。
――行けよ、櫂。ここから去れ。
俺にはそう聞こえてきて。
「ほら玲も何突っ立ってるんだ? 時間ねえんだ、お前がいねえと櫂を護る結界どうすんだよ!?」
そう言いながら、煌の手は芹霞の髪に埋もれて動く。
小さな肩に恍惚とした顔を埋め、そして俺に見せつけるように不遜に見据えてくる煌の……その褐色の瞳は欲情にぎらついて。
そのまま…俺を挑発するかのように、細められたんだ。
芹霞の髪の中にある煌の手は、より強く芹霞を引き寄せようと…悩ましげに動きながら、芹霞の黒髪をまさぐりつづけ。
その密着の度合いは――
唯の"幼馴染"を超えていて。
求め合う"男女の抱擁"
俺には、そうとしか思えなくて。
「芹霞ッッ!!」
堪らなく叫べど、芹霞は俺に背を向けたまま。
一歩前に2人に近づいた時、
「……櫂、行けってんの、聞こえなかったのか?」
今までに聞いたこともない程、低い声に威嚇される。
俺が煌に、制される。
立場の逆転。
橙色の前髪から垣間見えるのは、
悠然とした褐色の瞳。
褐色――いや、
「!!?」
真紅の――瞳?
見間違いか?
一瞬、瞳の色に赤が混じったのは。