ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~

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東京都品川区――

西糀谷(にしこうじや)


マクドナルド内2階。

中はかなりの喧騒に満ちていた。


午前中だというのに、何故か制服姿の学生の姿が多い。


糀谷は学生が多い地域とはいえ、

この時間、授業はどうなっているのだろう。


学校に行っていない私には、学生事情はよく判らないけれど。


「だからさ桜ちゃん、

とことん気持ち悪いんっだって。

あの女…篠山亜利栖(ささやまありす)」


私の目の前の男子生徒は、そう言った。


私立明星高校3年、私よりも2つ上だ。


燃えるように真っ赤な髪。

長めの前髪にハイライトの銀髪を交え、

耳と鼻には銀のピアスが光っている。


彼は惨殺された女性――

安部由紀の元恋人だった。


朝校門の前で待ち伏せ、拉致同然でここまで連れて来た。


先に写真で確認していたせいか、比較的簡単に見つけ出すことが出来た。


色彩強い髪をしているが、目元鮮やかな天然の橙色をいつも見ている私にとっては、然程衝撃を受けるものでもない。


着崩した制服や、飾った格好は今風だが、その表情は痛々しい程翳っていて…年相応の落ち込んだ色が見て取れた。

恋人の死亡に、かなりの衝撃を引き摺っているらしい。


「何言ってもいつも薄気味悪く笑って、協調性がなさすぎるっていうか、いつも持っている本が呪いだの魔術だのだし」


篠山亜利栖の名を出してその男子生徒――佐々木実に声をかけた時、顔を嫌そうに歪めて無視しようとしたので、ちょっとした睨みを利かせると、随分と素直に饒舌になってしまった。


「由紀達があいつシメた時、誰もがいい気味だって思ったんじゃねえか? な、マモル」


隣に座る、いかにも軽薄そうな茶髪の男が頷いた。


「つーか、うちの高校馬鹿学校だけど、」


それがよく判る言葉遣いだ。


――お前達のような馬鹿とは"種族"が違う。


「嗤いやがったんだ。キレた由紀が、あの女を殴ったんだ。そしたら」


――ブラッディ・ローズで呪ってやる。


「とにかく尋常じゃねえ悪魔みたいな極悪な顔で笑った。つーか、見てた皆、マジ震えた。結局由紀達は相次いで惨い姿で死ぬしよ、絶対あの女が呪い殺したんだ。マジ超やべえ」


男達は青ざめた顔を見合わせている。
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