ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~



「芹霞ッッ!!」



櫂の声が無性に怖くて。

これ以上、決定的な言葉を欲しくなくて。



「……櫂、行けってんの、聞こえなかったのか?」



煌は泣き続けるあたしを力いっぱい抱きしめた。



「……お前、芹霞を泣かせてるの、判らねえわけねえよな!?」



お願い、櫂。

あっちに行って。

これ以上、惨めな思いさせないで。



「――櫂様、玲様とお行き下さい。桜もここに残ります」


「……櫂、行こう」



桜ちゃんと玲くんの声が聞こえた。



そして櫂は――


「早く行きやがれ、櫂ッッ!!!」


煌の怒鳴り声に何も言わず。


「……芹霞は渡さねえ」


あたしの肩に顔を埋めた煌の声に、

あたしはどきり、とした。


ときめきというよりも畏れ。


悪い予感。


封印を解いてしまったような――。



あたしは、取り返しのつかないことをしてしまった?



遠ざかる足音。



煌の手は離れなかった。


「……煌?」


ようやく――

あたしも我に返る。



「んー?」


あんなに、あたしとのぎゅうを嫌がっていた煌が、


「どうした、芹霞」


より強くあたしとのぎゅうをしてくる、そのことに。


あたしは確かに違和感を感じたんだ。

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