ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~


僕だって――。



僕だって、芹霞が欲しい。


歯止めがきかないほど、切羽詰まっている。


欲しくて欲しくて仕方が無い。



かつてこれ程まで、

女を求めたことがあるだろうか。



僕は――

空虚な毎日が寂しかった。


いつも誘われるまま身体を重ね、相手が悦ぶ行為だけを延々と続け。


求められることで、僕の"僕"が騙されるから。


最果ての…刹那の快楽に、"僕"の開放感を味わい、そしてまた"耐える日常"に戻り行く。


螺旋に続く苦痛の毎日。


彼女達に暖かな愛を求めど、

それはやはり空虚なものでしかなく。


結局は、身体だけにしか得られない"女"の充足感に、満たされたと思ったはず愛が、いかに儚く脆いものか…思い知らされる日々。


いつも彼女達に言われた。



"どうして私を見てくれないの?"



その想い、今なら判る。


"自分"を見られないことが、どんなに辛苦か。

ただ1人を愛せばこそ――。



欲しい愛の延長上に、"僕"を心から充足できる行為があるのだと、気づいた時には、芹霞に囚われていて。


僕は動けない状態だった。


あの偉大な紅皇の妹だという少女。


櫂の変貌の原因となった…

櫂が心底恋焦れる少女。


あれ程全身全霊で求めているのに、

あの櫂が手に入れられない少女。


どこまでも櫂を特別視しているのに、その恋情だけは拒み続ける少女。


嘘偽りを嫌い、あの…凶暴だった煌ですら手懐けた少女。


今後櫂の隣に立つだろう少女に、本当に……ただの好奇心で無用心に出会ったのが、僕の誤算だった。


――櫂、僕にも見せてよ。お前のお姫様。



まさか――


櫂を捕えた小さな少女に、

僕まで囚われるなど。

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