ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
最後にちらりと見た芹霞は、
煌と抱き合っていた。
強烈な嫉妬の感情が、僕の中で荒れ狂う。
全てをかなぐり捨てても芹霞を煌から奪おうと、怒り任せに握り締めた拳に更に力を込めた時。
「玲」
櫂の静かな声が響いた。
それは、僕の身体を瞬時に制する枷のようで。
「玲、お前も――
芹霞が欲しいのか」
途端、僕の心が悲鳴を上げた。
駄目だ。
櫂に、"僕"の心を告げては駄目だ。
警鐘が鳴り響く。
櫂と対立しては駄目だ。
決定的にしては駄目だ。
誤魔化せ。
誤魔化すんだ。
だけど――
苦しくて。
もう心を抑え付けることが辛すぎて。
「ああ――。
欲しくて仕方が無い」
"僕"は真情を絞りきるように、
掠れた声で答えていた。
"僕"は止まらない。
「櫂と争ってでも手に入れたい。
真剣に――
――…愛してる」
僕は戦き、"僕"は強固に。
相反する心に引き裂かれそうになる。
いっそ、煌のように我を無くせば楽になるのに。
中途半端な理性が苦しすぎて。
「……そうか」
櫂は小さい声を放つと、静かに目を伏せた。