ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
ごめん、櫂。
本当にごめん。
それでも"僕"は、前言撤回はしなかった。
だから、朧な僕が言う。
僕に理性が働くうちに、これだけは。
「櫂。僕が気狂い壊れたら、
今度こそすぐに捨て置けよ」
予感。
僕が僕でなくなる予感。
僕が一番怖れる姿を櫂に晒すのなら、僕が櫂を敵として攻撃する前に至上最悪な事態だけは回避して欲しい。
だけど――
「玲。ありえない話だ」
そう、櫂は笑ったんだ。
「お前や煌が芹霞を好きだろうとも、俺がお前達を大切にしたい気持ちは変わらない。
もし俺が…芹霞のことでお前達を切り離すつもりなら、それだけにしかお前達を見れないのなら。煌がおかしくなり始めた時点で俺はあいつをまず殺っていただろうさ」
それは不敵に。
「それはそれ。これはこれ。芹霞のことはいずれ結果を出さないといけない。だがその為に、俺はお前を失うわけにはいかない。
俺をその程度の男だと、見くびるなよ」
僕は――
櫂の何を見ていたのだろう。
櫂はやはり櫂で。
僕には持ちえぬ強靭さ。
その櫂の想い人を勝手に横恋慕して。
勝手に狂い始めて。
僕はなんて小さな男なのか。
「だがな玲。
俺は――
芹霞を諦めない。
相手が誰だろうと、
芹霞は譲らない」
射るような切れ長の目。
「俺は引くつもりはない。
だから玲――。
お前も来い。
――全力で」
誰もが畏怖して崇める"気高き獅子"。