ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
櫂が変調をきたすなら、
僕にも何かがあっていいはずなのに。
僕は何も感じられない。
呪詛の先は……
櫂だけに特定しているのか?
僕は焦る。
結界を更に強めても、
櫂の体調は戻っていないようで。
「大丈夫……。行く……ぞ。煌を……戻さないと」
櫂は唇を噛んで壁から身体を離した。
ぐらり、櫂の身体が大きく傾く。
「危ない!!」
僕は慌てて、櫂の身体を支えた。
櫂の身体――熱くないか?
僕は櫂の額に手を当てた。
「櫂――お前、
凄い熱じゃないか!!!」
「……は。熱など……8年前に卒業した」
8年前、そう呟くと、櫂は切なげな顔をした。
「……芹霞……」
涙が混ざったような声だった。
懇願のような、胸を打つその声に。
僕の心も震えた。
「芹霞……」
櫂の瞳には、芹霞しか映っていない。
手を伸ばし、宙を掴もうとするその姿に、
芹霞を求めるその儚げな姿に、
僕の心は痛んで仕方がなかった。
櫂の心は、明らかに悲鳴を上げている。
もしかするとこの熱は、
彼自身の心から発した警告なのかもしれない。
壊れる、と。