ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
僕の結界は、櫂の熱を下げるには至らない。
何だ、どういうことだ?
僕が混乱し始めた時だった。
「呪詛は……
君の結界破りに向けられたよ?
……白き稲妻」
階下から、飄々とした声が響いたのは。
姿見えなくても僕には判る。
「……氷皇、か」
かつん、かつん。
足音がして、階下から青い外套に包まれた長身の姿が現れる。
恐ろしく整った顔。
藍色の瞳。
それより深い青の髪。
間違いなく――
元老院抱える五皇が一人。
氷皇……だ。
僕は小さく舌打ちをした。
熱で朦朧としている櫂。
狭い階段。
僕の結界は無効化されている。
氷皇の強さは尋常ではなく。
その氷皇と相対しているのは僕で。
背筋に緊張した悪寒が流れる。
この一方的な威圧感。
非情故の氷の皇子。
藤姫の犬。
「そんな怖い顔しないでよ、れ・い・く・ん」
あはははは。
馬鹿にしたような笑いに、僕は侮蔑の眼差しを向ける。
「君を迎えに来たよ、レイクン」
氷皇は薄く笑って、手を伸べた。