ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
「出来ないよね、君は。気高き獅子がこんな状態で、こんな場所で。無効化されたと思っても、結界を攻撃用には使えない。
結界力がないのなら、君の従弟にとばっちりがいっちゃうかもしれないものね? 君の月長石は役立たずだ。君と同じくね、あははははは」
僕が思わず手刀を繰り出すと、
氷皇はやはり足でそれを弾いた。
「無理無理無理。俺に攻撃出来るのは、この世ではアカ1人だけだ。そのアカに体術を習ったとしても、君はアカじゃない」
駄目か。
僕の攻撃は、氷皇には届かない。
確かに、僕は櫂の存在を傍目に、全力を出すことを躊躇している。
「取引しようよ、レイクン」
氷皇は冷たく僕を見下ろした。
「君が来てくれるなら。俺は気高き獅子には手を出さない。無論、このまま放置だけどね」
僕は押し黙る。
「んー拒否っちゃうか。
そうだね、君さ、
今――欲求不満でしょ?」
僕は訝った。
この男は、何を言いたいのだろう。
「君も、暁の狂犬のように、
――求めてみたくない?」
「……意味が判らない」
意味など――
痛いほどよく判っている。
触れられたくない、その意味に感づいている。
それを見越して、氷皇はくすりと笑う。
「芹霞チャン、だよ」
その名前の響きに、心臓が波打った。