ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
桜ちゃんは途端、顔から表情を消して能面のような顔つきをする。
空気が変わる。
怖い。
例えるならば、
この顔つきは――般若の面相だ。
「……久々の漆黒の鬼雷、登場か」
桜ちゃんから立上る威圧感。
空気が震えた。
小柄な身体から排出された大きな"何か"は、恐怖を生み出すには十分で。
いけない。
この2人を闘わせてはいけない。
あたしはそう思った。
血色の薔薇の痣(ブラッデイ・ローズ)が押し寄せている。
玲くんの結界がないのだから、あたしにとって頼りになるのはこの2人で。
だけどその2人が対峙していて。
それ処じゃない、そう思う対象はどちらに対してだろう。
血色の薔薇の痣(ブラッデイ・ローズ)か、2人か。
その時、血色の薔薇の痣(ブラッデイ・ローズ)が絶叫と咆吼を繰り返した。
尋常ではないその声の響きに、2人の注意もそれる。
血色の薔薇の痣(ブラッデイ・ローズ)が――
共食いを始めていた。
あたしは腕時計を見た。
3時。
何かが始まる。