ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
「ようやくかよ……」
真紅色の瞳が櫂と玲くんが消えたビルを見つめていた。
「これで邪魔者は消え去る、か」
邪魔者って…!!!!
「てめえ……!!!」
桜ちゃんの怒り狂った声。
煌の笑い声。
血色の薔薇の痣(ブラッデイ・ローズ)の絶叫。
三者三様の声色のユニゾンに、あたしは込み上げる吐き気を抑える。
恐怖と不安と緊張と。
櫂は……
玲くんは大丈夫なんだろうか。
「櫂のことなんか考えるんじゃねえッッ!!!」
煌の怒声と共に、桜ちゃんが動く音。
「桜ちゃん、駄目ッッ!!!」
止めるべきは不審な煌なのに、あたしは桜ちゃんを制する為に声を上げた。
桜ちゃんは本気モードだから。
このままだと、煌が殺される。
そんな気がしたから。
でも桜ちゃんにあたしの声は届かず。
2人がぶつかりあうその瞬間――
「ぎゃはははははは」
声がしたんだ。
「だから、言っただろうが。暁の狂犬から目を離すなって。
操られてんだよ、あの女に。んなことだろうと、思ったけどよ、ぎゃははははは」
金色の髪の男が、桜ちゃんの拳を掴み、そして煌を蹴り上げた。
それは、1回の瞬きの間になされたこと。
そう、速度なら陽斗だって負けやしない。
あたしは――
へなへなとしゃがみ込んでしまった。