ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~


やだ。


煌、やだッッ!!!


思わず煌の舌に噛みつくと、

口の中に鉄の味が拡がった。


唇が離れる。



「無駄だって」



煌はただ笑ってそれだけを紡ぐと、先刻より一層激しく、深く口づけてくる。


あたしの足を割って入ってくる煌の身体。


より密着する肌は、服という障害は何の意味も持たない。


荒い息遣いは、どちらのものなのか。


火傷しそうな熱さは、どちらのものなのか。


微かに漏れ聞こえる喘ぎは、どちらのものなのか。



煌から熱い何かが、あたしに流れ込み、あたしはそれを拒むのが精一杯で。


あたしは身体全体で煌を拒む。


そうしないと、あたしが飲み込まれる。


煌の熱さに、我を忘れて思ってしまう。



このまま流されたい――と。


煌が与える刺激をもっと欲しい――と。



煌は。


煌とあたしは。


香水女とのような軽い関係ではない。



――芹霞ちゃあああん!



何処かで櫂が慟哭する。


あたしから消えた櫂が哭いている。


櫂を哭かせたくない。


煌の手が、あたしの胸に触れる。


途端に興奮のような痺れが、腰から頭に突き抜け、仰け反った。


力が――抜けてしまう。


煌の手が動く。


確かめるようにゆっくりと、そして大胆に動き始めるその手を、あたしは何とかして必死に掴んだ。


あたしは――

絶対的な立場を主張する。



あたしは、煌に組み敷かれるままの女じゃない。



煌を支配するのは――

あたしの方だ。



それは本能が命じた動きだった。


あたしの掌が、煌の手首の――冷たいものに触れた時。



「うわああああああ」



煌が仰け反るようにして、あたしから遠ざかったんだ。



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