ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
「桜も居るんなら……ってお前また、芹霞にちゅうされたのか!?」
「ちゅう!? 何よ"また"って!!?」
あたしは思わず煌の胸倉を掴んで叫ぶ。
「あたしは節操なしのあんたとは違うの!!!」
「せ、節操なしって何……イテッ。何だ俺、舌切ったのか?」
「あんたがあたしを、香水女みたいに扱った当然の制裁よッッ!!」
「!!!」
煌の瞳は大きく見開かれた。
「……ゆ、夢じゃなかったのか、あれ……」
煌の呟きは、激昂するあたしには聞こえず。
「おい、そこの性少年。
もしくは、発情ワンコ!!!!」
「!!!!!」
あたしは、反射的に…後方に跳ねようとした煌に飛びついて。
そして――
「良かったあああ。
うわあああああん!!!」
思い切り泣いてしまった。
煌だ。
瞳の色は褐色で。
真っ赤な顔でうろたえるのもいつもの煌で。
間違いない。
これはワンコ。
いつものオレンジワンコ。
戻ってきた!!!
「……芹霞」
煌の声は震えていて。
あたしは鼻をすすりながら、褐色の瞳を見つめる。
「俺さ……」
言いにくそうに、辛そうに、何かもじもじしている煌。
「俺さ、お前に……
手…出したのか?」
泣き出しそうな面差しを、
あたしに向けた。