ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~


「どの程度?……いや、いい、答えなくてもいいけど……舌が血の味ってことは……」


ちらり、とあたしを窺った。


「キス……したのか、俺」


あたしはこっくり頷いた。


「軽く……

でもねえ……の?」


更に深く、あたしは頷いた。


「乙女の純情を踏みにじる、それはそれは凄いちゅう。ちゅう以上のこともしようとした」


すると煌は、がっくりと項垂れてしまった。


そして大きな溜息をつくと、少し動きを止めて、あたしを見る。


「あのさ、芹霞」

「何?」


あたしは思い切り顰めっ面をして、煌を睨み付けた。


「ど、どうだった? お、俺との……ち、ちゅうは」


「は!?」


「い、いやそうじゃねえ。そうじゃ………」


そして煌は何かを言いかけて、口を閉ざすと…眉間に深く皺を刻んで、深く深く考え込む姿勢を見せた。


どんよりとした空気を纏うオレンジ色。


落ち込んでいるのか?

考えすぎてショートしてるのか?


そして、奴は顔を上げた。

決意めいた褐色の瞳があたしを見つめる。


謝罪だと思った。

それくらい真剣な眼差しだったから。


だけど――


「悪いけどよ、俺――謝れねえ」


「何ですと!!?」


煌の口から出てきた言葉に、あたしは驚く。

真剣なだけに、不可解すぎるその結論。


仮に…"操られていて判らなかった"という理由があったにせよ、無体を働いたことに対して、謝罪がないなんて言語道断。


短絡思考も、ここまで狂った結果を出すのか。


だけど――


「なかったことには…

したくねえんだ」



怒れなかったんだ。


拙い言葉には紡がれない…泣きそうなくらいの…煌の切実さを感じ取ったから。


だからあたしは――




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