ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
「いってえええ!!!」
煌の頬に、緋狭姉直伝のグーで思い切り殴りつけた。
思い切り体重を乗せて、ぎゅるぎゅる言わせた。
「覚えておきなさい、煌。あたし以外だったら、こんなんじゃすまないわよ!? それくらいのちゅうだったんだよ!!?」
「……お前以外に、そんなちゅうなんてするかよ」
「ぼそぼそして聞こえないッッ!! 何か言った!?」
「いや、何も……」
「本来なら、盛った責任取らされてもいいくらいなんだからね!?」
「責任、取らせてくれるのか?」
「はあ!? 何目をきらきらさせてるのよ、このマゾ犬ッ!!!」
「マ、マゾ犬ッ!!!?」
「あのよー」
突然割った陽斗の声。
かなり不機嫌そうだ。
「いつまで漫才続けるわけ? 漆黒の鬼雷、とっくにビルの中に入っていったんだが」
促された先は――
櫂と玲くんが消えた場所。
桜ちゃんに見捨てられたらしい。
「しかし血色の薔薇の痣(ブラッディ・ローズ)の共食いはすげえな。元は人間だろうに。
まあ……漆黒の鬼雷が、腹いせに大分切り刻んでいったがな、ぎゃははははは」
ごめんね、桜ちゃん。
早く、行こうか。
そしてあたしは思い出す。
櫂のこと。
ぎり、と胸が鋭く痛んだ。
「なあ、芹霞」
煌が堅い声が聞こえる。
「櫂が嫌だって言ってたのは、俺の夢?」
あたしは答えざるをえない。
「いいえ――現実よ。
櫂に…永遠を拒否されたの」
煌は何も答えなかった。