ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
芹霞が櫂を全力で拒んでいた時、
チャンスだと俺は思った。
今なら、芹霞を奪えると。
いつも眺めるしかなかった俺の立場に櫂を追い込み、いつも優位に立って芹霞を抱きしめるその位置を奪った。
芹霞が縋るのは俺で、
櫂ではなく。
櫂は俺の影で、ただ立ち竦んでいればいい。
いつもの…俺みたいに。
それが実現した時――
俺はそれが嬉しくてたまらなくて。
芹霞が俺を選んだのに幸せを感じて。
だから俺は――
堪えていた想いを開放したんだ。
俺が遠慮する必要はねえ。
邪魔者はもういないと。
所詮は夢。
俺の願望が顕現される場所であるなら、どんなに"男"見せても、どんなに"女"求めても平気だろ?
俺の想いの中、遠慮することはねえ。
それはもう、我を忘れるくらいの快感で。
開放感だったんだ。
ぞくぞくとした甘美な痺れが身体に広がって。
芹霞を感じられる俺という存在を、愛しくまで思う程。
芹霞から可愛い声が漏れた時、絶対こいつを離せねえと思った。
俺が離れられねえと思った。
女の身体なんて見知っている。
香水を漂わせる女達の身体は、いかに俺と相性がいいものであっても、俺にこんな悦びは与えねえ。
満たされる。
芹霞1人に、俺は力が溢れる。
俺というちっぽけな存在でも、
大きく羽ばたけるようなそんな気になった。
俺には芹霞しか居ねえ、そう実感して…芹霞の波に俺は溺れた。
もっと強く。
もっと深く。
芹霞の匂いと熱さに我を忘れ、
俺は芹霞だけを求めた。