ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~


芹霞の存在すべてが俺を煽りまくる。



本当に無我夢中で。


求めてやまない芹霞を抱き、俺の想いをぶつけた。



俺を感じろ。

俺を求めろ。



お前の中の櫂の存在全てを塗り替えてやる。



俺だけを考えろ。

俺だけを見つめていろ。



今の俺なら、出来る気がしたんだ。



好きだ。


言葉にならない程好きだ。



俺もまた、芹霞の色に染め上げられる。


身体全体で伝える芹霞への想い。


たとえ夢であろうと、俺はこの夢から覚めたくねえ。


こんな甘美な夢、覚ますつもりもねえ。



だけど――


夢とはやはり途切れるもので。


目覚めてみると、景色は最悪で。


夢だと思っていたことが現実のことだと認識した時、俺の高揚感はどん底に沈み込んだ。


俺は…大好きな櫂に何をした?

何をして、喜んでいたんだ?


そして――。


邪念の痕跡は残ったまま、

芹霞の心だけがない事実。


櫂をいいだけ邪魔者だと追っ払ったくせに、

嬉々として芹霞に手を出したくせに。


櫂がいなければ、手に入ると喜んでいたくせに。


櫂を弾いても、俺は――

芹霞の心は手に入れることは出来なくて。


それが現実――。



俺と芹霞の間にあったのは、中途半端な身体の絡みだけで。

肝心の"心"が繋がっていなかった。


どこまでも俺は一方通行で。


夢でも現実でも同じ事。


俺の想いは芹霞には届いていなくて。


身体で示しても、それでも駄目だったという激しい失望感に苛まれた。


同時に自分への哀れみのような心が、縋ったんだ。


"俺"に反応してくれた…芹霞がいたこと。


それだけは、現実だったと。

それだけは忘れたくないと。



だから――


俺は芹霞に謝る気にはなれなかった。




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