ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~


「……ふうん。そんなに良かったんだ?」


にやりと笑ってからかえば、


「違うって言ってんでしょ!!

このエロワンコ!!」


そんな芹霞が可愛くて。

少しでも"俺"の痕跡が残せたのが嬉しくて。


例えそれが、心に届いていなくても。


「お前は……

香水女とは違うから」


「え?」


芹霞の動きが止まる。


「お前はあんな女共と違うから。第一、顔や会話など覚えちゃいねえし。

俺……どんな状況においても、お前には嘘だけは言わねえから。お前に向けた言葉、一言一句……全て本当の事だから」


芹霞は俺を見つめたまま。


「お前にとって俺は軽薄男かもしんねえけどよ、だけどお前に関しては、いつでも本気だというのだけ、覚えておいてくれ」


俺はやっぱりへたれだ。


正気では愛の言葉さえ、恥かしくて言えねえ。


芹霞が何処まで記憶あるか気になるけれど、口説き文句だと芹霞が思えているなら、その内容が本気なことだけを覚えておいて欲しい。


俺――

今度は自分の言葉で言うから。


だからそれまでは。


お前を軽んじたわけではねえことだけ、覚えておいてくれ。


俺はアンフェアは嫌いだ。


櫂が戻って来た時、そこからが勝負だ。


その時、芹霞の心の何処かで、俺を受け入れる要素があるのなら。


俺は芹霞を諦めねえ。


すまねえけどよ、櫂。


俺、引く気にはなれねえ。


引けねえ処まできちまった。


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