ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
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古ぼけたビルの階段を三人で下りている。


不機嫌さを隠さない陽斗が、必要以上芹霞にひっついている。


判ってはいるけどよ。

こいつはこいつなりに耐えたんだろうけどよ。


緋狭姉がこいつと接触し、

傍観するように頼んでいたことは驚きだ。


一体何だって緋狭姉はそんなこと……ま、殺気立つ陽斗の心は判らないでもないがよ、黙認してくれた結果として俺は正気に返ったというかなんというか。


惜しいことをしたという感もあるけど。


邪眼――。
 

爽快だった開放感。その延長上に殺戮があるのだとすれば、多分あの時の俺はそれを悪いことだと認識はしないだろう。


非現実な妙な快感に酔いしれていたと思う。


一種の快楽殺人だ。


もし憤慨した陽斗が俺を邪魔をして、俺と陽斗が殺り合うことになったら、それを契機に俺は、人間として崩壊したかもしれねえ。


そういう点で、陽斗の我慢は、俺の制裁者(アリス)還りを阻んでくれたんだから、ありがたいことかもしれねけど……。


だけど面白くねえ。



何でそんなに芹霞に触るんだよ。


触りすぎだ、馬鹿!!



さっきから俺と陽斗はぎゃあぎゃあだ。


芹霞はうるさいと両耳を塞いでしまった。


それでもこいつが来たから、俺と桜の衝突も止まったんだ。


どこまでも緋狭姉は、俺達の行動を読み続ける。


緋狭姉が無理やりつけた腕環――これに芹霞が触れた時、俺は邪眼から開放されたらしい。


俺の邪眼など、8年前――緋狭姉にぼこぼこにされた時、消え去っていたはずのもの。


蘇るとは、俺はまだ過去の幻影の産物なのか。


俺が邪眼に流されることは、緋狭姉の範疇内だったんだろう。


本当に俺は、期待を裏切らない単純馬鹿らしい。


そんな時だった。


先に行ったはずの桜の声がしたのは。




「――櫂様!!?」



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