ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
そして芹霞はそれを受け取ると、睨み付けるように俺を見据えてそれを渡す。
「もう――あたしの役目じゃないから。"紫堂櫂"に一番近い煌がやってよ」
「何こだわってんだ、芹霞。櫂は、俺達にとって大事な幼馴染だろ?」
俺は――
櫂が可哀想だったんだ。
2人の間にあった理由なんて知らねえ。
だけど、櫂が。
この櫂が。
芹霞との"永遠"を否定するなんて、ありえねえ。
「あたしが櫂に永遠を望むのは、櫂にとっては死ぬ程嫌なことだったみたい。だったらあたしは必要ないもん。もう嫌われるのは嫌だし」
そう俯いてしまった。
芹霞の誤解に違いねえ。
そんな奴が、お前恋しいって泣くかよ。
誤解を解いてやりてえけれど、櫂のこの熱の具合見てれば、そんな悠長なことやってのける時間はねえ。
俺はため息を零しながら、なんだか判らねえ錠剤を芹霞の手からひったくり、櫂の口元に放り込むと、喉を上方に持ち上げ下顎を叩いて閉めさせた。
薬を飲み込んだようだ。
そして櫂を何処で休ませようか、皆で相談していた時。
下から風が走った。
「はろはろ~」
そして――。
「芹霞チャンは貰うね。
櫂クン、お大事に~」
2折に崩れ落ちる芹霞。
それは本当に一瞬の出来事で。
芹霞は――
俺の芹霞は――
「来たいならご自由に。場所は市ヶ谷駐屯地。
ここの地下はもう移動が終わった後だから、俺みたいに移動手段でお好きに使って構わないよ、あははははは」
目の前で青い男――
氷皇に担がれ、消え去った。
誰もが何も出来ないその僅かな間。
過ぎ去れば、流れる時はただ苦痛の悪夢で。
「芹霞あああああッッッ!!!」
芹霞は――
階下の暗闇に溶けて消えてしまったんだ。
俺の…目の前で。