ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
「………ふぅっ…」
報われない想いは、授業中でも…窓の外に向けられる。
桐夏学園普通科の棟は、俺の居る特進科と渡り廊下だけで連結し向かい合わせに位置している。
だから見えるんだ、普通科は。
だけど窓の奥の風景など小さすぎて、想像するしかないが。
多分寝ているだろう芹霞を思い浮かべると、自然と顔が弛んでくる。
本当は――
高校を行かなくてもいいくらいの学歴は、既に密かに身に付けているけれど、芹霞には伝えていない。
紫堂の仕事を思えば、高校など行かない方が時間的にはゆとりがあるのだが、そうはいってられないんだ。
傍に居たいから。
だからこそ――
同じ教室に居たかった。
煌と揃って居たかった。
春を思い出す。
――紫堂さん、この通り。特進科に居て下さい!!
普通科に戻せと怒鳴り込んだ俺に、俺を客引きパンダにしたいらしい学園の長は、土下座して泣きついてきた。
学園事情など知るか。
――そんなこと言わずに…。では、
呈示された条件。
頷かない俺に、学園側の譲歩の条件が積まれていく。
――出来る限り普通科との接触を多くし、移動教室は普通科のものを使用します。
少し反応した俺に、涙声の学園長は言う。
――では…紫堂さんが出した条件を呑みましょう。
だから俺は言った。
ならば――。
学園長が頷いたのだから、俺の良心は痛まない。
そうだろう?
俺は無理強いはしていない。
――嫌なら、普通科に行く。
選択権を与えたのだから。
そして事実上――
桐夏の経営権は、紫堂にある。