ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
「れ、玲くん、やめて!!
どうしちゃったの!!?」
あたしの頭はパニックで。
玲くんが。
あの玲くんが。
にこにこほっこり、お嫁さんにしたい№1の玲くんが!!
肉食獣のようなぎらぎらとした眼差し見せて、あたしにこんなことするなんて。
それゃあ玲くんは白い王子様で女の子からモテモテ人生だろうし、野獣の煌とは違う…"両想い"の延長上での女性経験は多々あると思う。
だけど、相手はあたしだよ!!?
ありえない。
絶対、ありえないよ。
あたしが絶世の美女で、ありあまる色気で玲くん惑わせられるのならまだしも…平凡この上ない、男になんてモテたことのないこのあたしだ!!!
緋狭姉の血は引くのにまるで違う…残念なあたしだ!!!
ありえない。
煌といい、玲くんといい――
また藤姫かッッ!!?
そうだ。
そうに違いない。
とりあえず、玲くんを正気に戻さないと。
「玲くん、玲くん…ちょ…!!!」
あたしはわめきながら、変貌した玲くんを両手で押し返した。
だけど玲くんは。
あたしの手首を痛いくらいに掴んで、あたしの動きを制する。
玲くんは強い。
判っている。
皆が一目置く、紫堂の元次期当主。
その実力は計り知れない。
だけど玲くんの強さは、
正々堂々としたものだったはずで。
優雅で舞うように。
颯爽として。
こんな…力尽くなんてことはないはずで。
――玲の拷問はすげえんだよ。
――ひと言でいえば"えげつねえ"。
"玲くん"って、どんな人?
玲くんと"玲くん"は、まるで違うの?
あたしの中での紫堂玲が、曖昧になる。