ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~



「芹霞……」


それはもう荒い息にしか聞こえない響き。


貪るように、あたしの首筋を攻め立てる音がする。


強弱付けたその唇の動きと、這うような舌の動きに、あたしの全身が総毛立つ。



熱が…玲くんの熱が、

あたしの肌に溶けてくる。



「玲く……んッ!!!」


荒々しいのに限りなく優しい。


強引さを感じさせないほど、その動きは滑らかに滑り落ちるように。


やばい、と思った。

抵抗感より、陶酔感が勝っている。



「芹霞……呼んで?

僕の名前……」



囁くその声音すら――


甘美で心地よい、と思ってしまう。


ぞくぞくする未知なる心地に、囚われてしまいたくなる。


だけど。


なけなしの理性が…必死にあたしを押し止める。


「玲くん……玲くん、ストップッ!!」


あたしが両拳で思い切り玲くんの胸を叩くと、玲くんは顔を離した。


「………」


それは深い翳りの出来た顔。


頬に落ちた…乱れた鳶色の髪が、

更に玲くんの表情を翳らせた。


なんて…切ない顔をするんだろう。

なんて…苦しそうな顔をするんだろう。


あたしは――

魅入られたように…

動けなくなってしまった。


言葉を失ってしまった。



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