ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
何の気配もないことを何度も確認しながら、静まり返った白い大理石の廊下の上に、櫂様の熱い身体を横たえる。
陽斗から貰った解熱剤を飲んでも、櫂様は一向に回復しない。
私の手には玲様の月長石。
玲様の代わりに…置かれていた彼の守護石。
私は、この石の使い方は判らない。
私の黒曜石を顕現するだけしか出来ないんだ。
他の石から、力を引き出せるような…そんな技は持ち合わせていない。
口惜しい。
力を秘めた石を託されても…
私は――無力だった。
判っていたはずだったのに。
玲様と芹霞さんが、櫂様から離れれば…櫂様は呪詛にあてられると。
櫂様の心を護れる芹霞さん。
櫂様の身体を護る結界を作れる玲様。
芹霞さんは…暴走した馬鹿蜜柑が奪い、玲様はいなくなってしまった。
馬鹿蜜柑が正気に返ったとはいえ、その事実を今の櫂様が知らないのであれば、櫂様にとっては、3人の近しい…心の拠り所とされている存在を、いっぺんに失った状況なのだ。
私はその穴を埋める程の存在ではないことを、嫌でも思い知らされる。
何が紫堂の警護団長だ。
敵を蹴散らす力があっても、
櫂様の支えにはなれない。
私1人では櫂様を守れない。
それが…無性に苛立って。
だから私はヒステリックに叫び続けた。
「おい陽斗ッッ!! てめえ櫂様が、紫堂が憎いからと、おかしなものを呑ませたわけじゃねえだろうなッッ!!?」
櫂様の意識が戻らないのは、陽斗の錠剤が更に櫂様を悪化させるようなものだからと、責任を陽斗になすりつけようとした。
八つ当たりだということは、私にも判っている。
しかし私は、この苛立ちを止めることが出来なかった。