ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
陽斗は――
冷やかな金色の瞳を向けるだけで何も言わない。
それが…私を馬鹿にしているように思えて、憤った私は、陽斗の胸倉を掴んだ。
しかし…やはり陽斗は何も言わない。
「桜ッッ!! 落ち着けッッ!!!」
煌の声が、私の怒りに益々火をつける。
「落ち着け……だとッッ!!
元はといえばてめえがッッ!!!
てめえが芹霞さんを…横恋慕などしやがったのが原因じゃねえかッッ!!」
「………っ」
途端に歪む橙色。
「あれ程…櫂様に悟られねえようにしろと言ったじゃねえかッッ!! てめえ何堂々と、櫂様を裏切る真似しやがったんだよッ!! 何堂々と芹霞さんに盛って開き直ってるんだよ、何あっさり藤姫の罠にかかってやがんだよッッ!!!」
もう怒りで自我が崩壊しそうだった。
判っている――。
「そんなてめえより、自分がッッ!! この自分がッッ!!
何でてめえの暴走を止められず、櫂様と玲様から離れたのかッッ!!!
そして――居たのにッッ!!
自分が傍に居たのにッ!!!
どうして芹霞さんを奪われたのかッッ!!!」
怒りの対象は――
自分自身だということは。
「漆黒の鬼雷よー」
静かに口を開いたのは…陽斗だった。