ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
「ひ、緋狭姉…
なんだその格好!!?」
煌が驚いたのも無理はない。
緋狭様の服はいつもの艶めかしい襦袢姿ではなく、氷皇と色違いの真紅の外套を身に付け、そして耳元の長さに切られた黒髪。
まさしく――
在りし日の"紅皇"の姿で。
私は悟る。
紅皇に決意させただけのことが、起きるのだと。
「そんな顔をするな。
これは私のけじめだ」
その顔には、揶揄するような表情はなく。
誰もが憧れ、誰もが心の拠り所にした、神々しいまでの顔。
紅皇は私から月長石を受け取ると、櫂様の元に歩み寄り、屈み込んでその額に手を触れた。
「ここまで精神が弱らねば、まだまだ本番には至らぬこの程度の呪詛、坊ならはね除けられたものを……」
そして緋狭様は――
月長石を握り締めると、軽く目を閉じた。
手が発光する。
玲様の色ではなく――赤。
熾烈ながら慈愛深い…
紅皇の光の色へと。
そしてそれは…櫂様を包み込み、赤い球状となった。