ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
家事が一切出来ない緋狭姉になり変わり、あたしに料理を始め、世間を生き抜く庶民の知恵を授けてくれた。
櫂や煌には言えないあたしの愚痴を、ただひたすらに聞いてくれた。
中学時代、進路を決める重要な三者面談には、緋狭姉の暴走を心配したあたしの為に、わざわざ一緒に来てくれた。
卒業式にも出てくれた。
入学式にも来てくれた。
あたしのアルバムの写真は、あたしのビデオテープは、玲くんが…居ないあたしの両親に代わって、ちゃんと撮影して保存してくれた。
あたしにとって玲くんは、
緋狭姉と共に大事な家族で。
だから――
あたしは混乱する。
今、あたしの唇を奪っているのは誰?
今、荒々しくあたしを貪っているのは誰?
噎せ返るような色香以上に、
容赦なくあたしに向けられる熱い迸(ほとばし)り。
搦め捕られたあたしは動けない。
唇を割って、差し込まれた熱い舌先は、あたしの中で…慣れた滑らかな動きを見せている。
歯の裏側を優しくなぞられ、びくんと反応したあたしを見逃さず、今度はそこばかりを強く執拗に攻める。
「……玲く……んんっ…玲…んっ…」
緩急使い分ける、全く容赦ない舌の動きにあたしは翻弄され、息絶え絶えに玲くんの名前を呼ぶ。
すると玲くんは一瞬だけ唇を離し、
「もっと……
僕の名前だけを呼んで?」
唾液で濡れた紅い唇が、
苦しそうに…そう言葉を紡いだ。
「玲くん……」
ぼんやりとする意識の中で、乞われるままに名前を呼んだ時、また玲くんの唇が覆い被さってくる。
その唇は微かに震えていた。