ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
どの教室も生徒が居ない。
普通科の誰もが居ない。
俺の芹霞は…影すら見えない。
ありえない不自然さ。
何処に――行った!!!?
鬩ぎたてる不安と怒りにぎりりと歯軋りをし、廊下を駆けようと踵を返した時、職員室から走り戻ってきた煌に、声をかけられた。
「か、櫂! 普通科、授業自体やらずに皆下校させてたらしいぜ! 特進科は今日午前授業なのに。ということは今1時限の休憩だから、1時間半も前に芹霞は帰ってる。今、靴箱見てきたら…上履きだった!!!」
「――…っ!!!」
俺は携帯を取り出し、芹霞に電話をかける。
1人で歩くな、必ず俺か煌を傍に置けと、朝からずっと言い聞かせてきたはずなのに、強制下校に喜んで先に帰りやがった。
俺を待たずに。
――うんうん。
やはり、聞いちゃいない。
しかし携帯が繋がらない。
電源が切れているというアナウンスしか流れない。
余計に不安が煽られて、息をするのが苦しい。
「昨日の今日で、何能天気な……」
第一、昨日だってはっきり言ったはずだ。
――これからは俺が傍にいるから。
あれにだって頷いていたのに、全然判っていない。
もしかして今頃……道化師に!?
それとも、芹霞目当ての男に!?
あの生徒会長か!!!?
「お、落ち着け、櫂。落ち着いてくれねえと、桐夏が凍りついちまう」
煌が俺の腕を揺らす。
俺は舌打ちをして、今度は玲に電話をかけた。