ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
「その前に。由香ちゃんの無事を確認したい」
玲くんは、不安がるあたしを片手で抱きとめながら言った。
「彼女に万が一のことがあれば、僕はこれ以上は拒否する」
すると蒼生が右手を上げた。
途端何かが動く気配がして、数分後には数人の自衛官が何かを抱えてきた。
蒼生の右手が下がると同時、それは床に放られた。
「由香ちゃんッッ!!」
あたしは思わずそれに縋った。
女の子なのに。
櫂の家で、玲くんの結界で癒されたはずの顔はまた赤く腫上がり。
軽く肩を揺すると、声が漏れた。
「かんざき……?」
腫上がった瞼が向けられた。
「由香ちゃん、ごめんね。
助けてあげれなくてごめんね」
由香ちゃんを1人にしたのはあたしの判断だ。
「コエ……戻ったんだ。よかった……」
そしてふっと意識を飛ばしてしまった。
「さて、レイクン。無事なのは確認できたよね。じゃあプログラム、再開始して貰うよ。拒否権はないよ。ここには愛しの芹霞チャンもいるんだからね」
玲くんを見上げると、玲くんは苦しそうに唇を噛んでいた。
「選ぶといいよ。君がプログラムの再開始を拒否るのならば、芹霞ちゃんが犠牲になる。仮にそれを選んでも、パスワード解除さえ出来れば、後の再開始くらいはここにいる情報の精鋭たちが何とかしてくれるさ。
で、再開始したら……
間違いなく気高き獅子は、逝くよ?」
どくん。
あたしの心臓は、恐怖に波打った。