ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~


――逝くよ?


櫂が……死ぬということ?



「駄目……玲くん。あたしはどうなってもいいから、それだけは絶対に駄目!!」


あたしは必死になって玲くんに訴えた。



玲くんは――



「僕が……本当に解除したと思う?」



玲くんは笑っていたんだ。


"えげつない"、そんな笑みを。



「ああ、言い方がよくないかな。そもそも、パスワードなんてものが存在出来ると思う?」


どこまでも挑発的に言い放つ玲くんに、蒼生は僅かに顔を歪めさせた。

片眉を少し動かしたぐらいの、些細な変化だったけれど、人の言葉で表情を崩すということ自体、蒼生には珍しい所作だ。


「今回、お前達が用意したプログラムは2つ。1つは御階堂家にあったメインサーバ管理下の呪詛プログラム。そして今、自動発動している最終呪詛プログラム、と言えばいいのかな。これは、まだ完全に無効化出来ない呪詛プログラムに連動して成り立っている。

1つ1つのコードが、知識と……呪詛という意思を持って複製を繰り返し、自己増殖をする。取り急ぎ、増殖したものを削除するのが正直精一杯で、核たるものを解読して完全無効化させる暇と設備が急遽用意出来ない。

僕でさえ手を焼くそんなプログラムが、どうして由香ちゃんのパスワード1つで簡単に制御出来るのさ?」


蒼生は何も答えない。

ただ、玲くんが言わんとする処は判っているようだ。

小さな舌打ちの音が聞こえる。

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