ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
「意思と自己増殖……例え発展させたのが由香ちゃんとはいえ、彼女が使用した土台のプログラムの原型……根幹は僕のスタイルが律儀に踏襲されている。
これは人間の進化過程のようにしばしば突然変異をもたらしてね、お前達はそこを利用して呪詛を植え込んだつもりだろうけれど、逆に扱える人間を限定しすぎてしまった。僕でさえ制御に時間を要するというのに」
玲くんは愉快そうに辺りを見回しながら言う。
「この場所は、日本でもトップクラスの情報部……精鋭達が集っているんだろうけれど、0と1で織りなすコードをただの"機械への命令語"としてしか見れないガチガチの人達には、僕の創り出すものは理解出来ないだろうね。
その点由香ちゃんは、例え紫堂の力がなくとも、例え一般的な知識や技術がここの連中には及ばなくとも、一番僕のプログラムに近しい……相性がいい人間だ。
その彼女が抑えたものを、技術的に此処の連中が解除出来ないという事実……まず考えてみればよかったね」
「……偽装、か」
忌々しげに言い放つ蒼生とは対照的に、玲くんはにっこりと余裕顔で笑った。
「要は、機械から弾き出されるものに、"意思"が読み取れるか、"世界"を受け取れられるか、なんだけどね。
生憎ここの方々には、機械を……コードの裏側を読み取れる奇特な方はいらっしゃらなかったようだ」
「それでも……
プログラムを無効化出来たわけじゃなかろう?」
射すくめるような藍色の目。
ぞっとする程冷たい口調。
これが本来のこの男なのかも知れない。