ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
鳶色の瞳が何かを訴えたげにあたしを見ていたけれど、あたしは責めるような玲くんの瞳に居たたまれずに、意識的に無視した。
「まあいいや。レイクン。1つ訊くけど、月長石をここに持ってきて、此処の電力を吸い尽くすなり、それを利用してここを破壊した方がよかったんじゃなかったの? どうして大事な守護石を置いてきたのさ」
「櫂に向けられたものが、プログラムだけだったらそうしてるけどね。プログラムは餌だ」
「どうしてそうだと?」
蒼生は愉快そうな笑みを浮かべている。
「櫂に拘りすぎるから。紫堂ではない、櫂個人に利用価値があるとしか思えない。プログラムの呪詛は目眩ましと僕達の力をそぐだけのもの。藤姫の催眠も僕達と櫂を不和にさせ、櫂を追い詰めるためだけの。それは…命を奪う為だけのものじゃない。もっと魂胆があるはずだ。
それが証拠に、氷皇……お前はまるで動じていない。
プログラムなどどうでもいいように。
事態は佳境に入った…
ということですか、
――……藤姫?」
玲くんが促すと、
待ち兼ねたかのようにドアが開いた。
誰もが最敬礼をし、蒼生まで会釈をする相手。
悠然と道の真ん中を歩く、藤色の小さな身体。
「ごきげんよう、芹霞さん」
黒い瞳。
赤い唇。
腰まである長い黒髪。
そして、目許の3つの黒子。
「芹霞、見ないッ!!」
玲くんがあたしの目を手で覆った。
それでも瞼に残る残像に、
くらり。
目眩がした。