ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
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苦しい呼吸が少し楽になってくる。

ざわついていた喧騒が形になる。


俺を覗き込む黒い瞳。


芹霞か?



否――。

よく似たこの瞳は、緋狭さんだ。


いつもの姿ではなく、

在りし日の紅皇のものだ。


8年前の俺を救った、赤い外套姿がここに在る。


凛とした面差しは、今でも神々しく。


ああ。


俺は――

まだ諦められない。



昔、紅皇が俺に言った。



そんなに欲しいなら手に入れろ。


その為に私は現れた、と。



ならば、今あの姿で現れた彼女は、また俺の救世主となるのか。



だとしたら――



ああ、俺にはやるべきことがあるんだ。



「闇を支配出来る血染め石。主である坊の潜在能力は凄まじかった。生誕時に力分配させる紫堂の因習に則るも、それでも尚当主の力を凌駕する事実を恐れた当主は、守護石を2つにした。

1つは因習通り坊へ。そして1つは当主から……元老院へ。それが全ての発端だ」



俺に起因している事象が、

俺達の関係を崩してしまうものなら。


今の――

脆く危うい関係を作っているというのなら。



「懐かしかろう、なあ坊?」



俺はそれを正さないといけない。


今、俺が私情に崩れている場合ではない。


それこそ、敵の思う壺だ。

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