ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
ここまでの覚悟を表層に引き出したのは、ある意味…藤姫と氷皇のおかげでもある。
櫂のへの罪悪感は消えたわけではないけれど、芹霞を渇望する心は…彼らの存在によって、強まった。
行き場なくさまよっていた心は、
――全力で来い。
櫂と…氷皇達のおかげで、僕なりの道を見つけたんだ。
諦められないのなら…頑張ってみようと。
それが正しいのか、間違っているのかは判らない。
だけど。
頑張ってみようと、思ったんだ。
だけど…
その時間はないのかもしれないね。
刻々と過ぎゆく時間。
パスワードの影の――
コードに託された由香ちゃんのメッセージ。
彼女は、彼女の手を離れて独自に膨れたプログラムの穴を見つけてくれた。
それは意外にも簡単なことで。
僕は時間を稼いで――
"その時"を待たねばならない。
「うふふふ。まだ生き残っていて、嬉しいわ」
篠山亜利栖の肉体を、己のものとした藤姫。
緋影の肉体及び臓器は、元来異物に対する抗体反応が薄い。
その為、自分以外の肉体でも繋ぎ合わせれば、それが自分の肉体の一部だと誤認する。
故に。
時の権力者の代替え品(スペア)として、緋影一族の絶対数は減じられ、今は陽斗と亜利栖と、御階堂充の3人だけが確認出来るだけになった。
「ふふふふふ」
笑みは亜利栖のもの。
だけど肉体ではカバーできない、藤姫の本質とでもいうべき禍々しい気は、未だ十分に健在だ。
亜利栖の意識は…あるのだろうか?
「貴方は一体、何が望みなんですか、藤姫」
僕は声を荒げないよう気をつけながら、訊いた。
「私は壊れるものが見たいの」
何の躊躇もなく、言葉が返った。