ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~


ここまでの覚悟を表層に引き出したのは、ある意味…藤姫と氷皇のおかげでもある。


櫂のへの罪悪感は消えたわけではないけれど、芹霞を渇望する心は…彼らの存在によって、強まった。


行き場なくさまよっていた心は、


――全力で来い。


櫂と…氷皇達のおかげで、僕なりの道を見つけたんだ。


諦められないのなら…頑張ってみようと。


それが正しいのか、間違っているのかは判らない。


だけど。


頑張ってみようと、思ったんだ。



だけど…

その時間はないのかもしれないね。


刻々と過ぎゆく時間。


パスワードの影の――

コードに託された由香ちゃんのメッセージ。


彼女は、彼女の手を離れて独自に膨れたプログラムの穴を見つけてくれた。


それは意外にも簡単なことで。



僕は時間を稼いで――

"その時"を待たねばならない。



「うふふふ。まだ生き残っていて、嬉しいわ」



篠山亜利栖の肉体を、己のものとした藤姫。


緋影の肉体及び臓器は、元来異物に対する抗体反応が薄い。

その為、自分以外の肉体でも繋ぎ合わせれば、それが自分の肉体の一部だと誤認する。


故に。


時の権力者の代替え品(スペア)として、緋影一族の絶対数は減じられ、今は陽斗と亜利栖と、御階堂充の3人だけが確認出来るだけになった。


「ふふふふふ」


笑みは亜利栖のもの。

だけど肉体ではカバーできない、藤姫の本質とでもいうべき禍々しい気は、未だ十分に健在だ。


亜利栖の意識は…あるのだろうか?


「貴方は一体、何が望みなんですか、藤姫」


僕は声を荒げないよう気をつけながら、訊いた。


「私は壊れるものが見たいの」


何の躊躇もなく、言葉が返った。

< 818 / 974 >

この作品をシェア

pagetop