ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
僕は目を細めた。
「中途半端なものは嫌う完全主義者と伺っていましたが?」
「うふふふ。完璧に至らぬものは嫌いだけど、完璧を装うものの崩壊の様は美しい。
きっと紫堂櫂も貴方も崩れる様は、見事なんでしょうね」
陶然とした顔で言われた。
ざわざわ…。
僕の血が…共鳴にざわめく。
彼女は…狂っているんだ。
「そんなものの為に、櫂が選ばれたと?」
「一因ではあるけれど、直接的原因はそれじゃない。彼の持つ、血染め石が欲しいの、欲しくて欲しくて堪らないの」
ぞくり、とした。
艶然とした顔で乞われると、
僕の中の燻った"男"が目覚めそうになる。
元々…肉欲に対しては、淡泊なはずの僕ですら…煽られる強烈な誘惑。
こうして――
元老院も惑わされてきたのか。
それでも僕には、芹霞がいる。
僕が強烈に欲しいのは…芹霞だけだ。
「100年以上も、あの石ほど私を満足させられたものはないわ。あの石のおかげで、私は潤えるの。だから欲しいのよ……」
「ひ、100年以上?」
僕の手の中の芹霞が、裏返った声を出した。
そして僕の手を払って、藤姫を見据える。
僕は慌てたけれど…
芹霞の状態は大丈夫そうだ。
どうしてだ?
先刻までは――。
氷皇の視線を感じた。
氷皇は…僕を見て、薄く笑っている。
ああ、彼か。
芹霞の声を戻した氷皇であるのなら、
藤姫の"毒性"を中和できる術があるというのか。