ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
そう。
あの時。
あの穏やかな休日。
家には父さんと母さんと、櫂が居て。
確か緋狭姉が休暇で家に帰ってくる予定で。
櫂と一緒に、緋狭姉と一緒に食べるクッキーを焼いていて。
その時――
風が…奔(はし)ったんだ。
あたしの焼いたクッキーが、一瞬にして真紅色に染まり。
訝しげに見上げた母さんの頭は、笑顔のまま首からずり落ち床に落ちて。
――芹霞ちゃあああん!!
しがみつく櫂を震える手で抱きしめながら、助けを求めた父さんは――。
新聞を読んでいた父さんの首は、後方に落下した。
吹き出す血潮。
視界が一面真紅色に染まる。
何?
これは何?
気づけば――
鋭い真紅色の異物が目の前にあり。
返り血に染まった白い服を……
制裁者(アリス)の制服を着た邪眼が……。
息が詰まる…衝撃。
――芹霞ちゃああああん!!!
更に…視界に濃く拡がる真紅色。
泣き叫ぶ櫂の声。
これは何?
この赤いものは…何?
あたしから吹き出る真紅色が、
あたしの身体に絡みつく。
そう、いばらのように。
激痛と共に…
あたしを締め上げる。
真紅色に染め上げて。