ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~

├お姫様と嘘臭い青


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「……紫堂くん、どうだって? 

ごめんね、私が無理やり付き合せちゃったから…」


櫂との電話を切った時、弥生が心配そうに見つめてきた。


「別に弥生のせいじゃないって。何とかお怒りは静まったようだけど……でも、携帯繋がらないからって、そんな怒るようなことかな」


そもそも――

電源を切ろうとして切っていたわけではなかった。


朝、弥生と恋愛ゲームの対象キャラを揉めていた最中、クマ五郎が入ってきて…ゲームを切ったつもりが、長押ししすぎて電源まで切っていたことに…今まで気づかなかっただけ。


故意ではなく、過失。

情状酌量の余地はあるじゃないか。


「それにしてもびっくりしたわよ、私の携帯に…突然玲様から電話かかってくるなんて」


吃驚というよりはその顔は紅潮して。

彼氏がいるくせにうっとり顔だ。


弥生は、桜ちゃん同様…玲くんのことを様をつけて呼ぶ。


玲くんは基本、あのマンションから出てこない"引篭(ひきこ)もり"だけれど、体育祭を始め桐夏のイベントには桜ちゃんと、保護者代表として見に来る。

櫂と煌。

そして玲くんと桜ちゃん。

贅沢なイケメンパラダイスで、桐夏女学生…ピーヒャラお祭り状態。

中には男も混ざっていたけれど。


聞くとはぐらかされるが、多分弥生は玲くんに普通以上の好意をもっているはずだ。

そりゃあ櫂や煌とは違う、にこにこにっこりの優しい王子様だからね。


「芹霞、玲様に私の番号教えてたの?」


あたしは首を横に振る。


「玲くんは1人何役もこなす、多才な人だからね。治療班に食事班、煌や桜ちゃんの指揮官、櫂の参謀…まだまだあるけどその実体は、大根好きな機械オタクだし…」


弥生は目を細めた。


「何で大根好き?」

「さあ? 基本"引篭もり"のインドアタイプなのに、大根の特売日にはスーパーに朝から並んでいるみたい」

「玲様が大根……」


にこにこ優しく微笑みながら、1本50円の大根買いに、3駅向こうのスーパーまで歩いてお買い物。

そしてその夜は、嬉しそうに作ってくれる…ぶり大根。

最高!!


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