ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~



「芹霞の中の闇石は、お前達を含めた人間の内に秘めた闇を吸い取り、少しずつ成長していった。

時折芹霞の身体は、吸収した闇の力にあてられ、意識飛ばすことも多々あったようだが。

育った血染め石を、藤姫は何度も手に入れようとした。だが、当時の藤姫の身体は"老化"していてな、恐らくは緋影の身体の突然変異だろうが、一般的な医学用語で言えば"早老症"。遺伝子レベルでの欠陥があった。

その身体では坊の血染め石を扱える状態にはなく……藤姫は老衰、衰弱死をした」


確かに、藤姫は死んだと伝えられた。


「先に死んでいるのに、

なぜ篠山亜利栖の身体で蘇られたんです?

亜利栖の身体にある意識は、間違いなく…藤姫のものだ」


櫂様が尋ねた。


「元老院が保存していたのだ。

藤姫の脳を」



緋狭様の目がすっと細くなった。



「何故脳を……」


そして、はっとしたように目を見開いて。


「ああ、それが…

"黒の書"となりえたのか!!」


そして軽い舌打ちの声が聞こえた。


「長く生きていれば、記憶ぐらいできる。書物なくとも"記憶"さえあれば……生ける屍を、血色の薔薇の痣蘇らせることは容易いか……」


「そう。私が黒の書を燃やした処で、藤姫が"生きている"限りは意味がないのだ」



叡智溢れる藤姫――

それは悠久の時の中での、至極当然な記憶を持てる所以(ゆえん)でついた呼称か。


記憶は更に知識を増し、身体は部品のように付け変わる。


そこまでして"生きる"とは何て無残で、滑稽なのだろう。

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