ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
「元々亜利栖はな、芹霞を憎悪していたそうだ。芹霞は一度、亜利栖の弟を庇ったことがあるらしいが、その現場を亜利栖が見て、愛故の行為だと勝手に勘違いした。自分の大事な者を奪う女とな」
――それを止めたのが桐夏の気の強そうな女で、篠山亜利栖はその女を影から激しく睨みつけていたらしい。つーか、完全嫉妬だな。
「そこにアオが接触し、自暴自棄になりかけていた亜利栖を、特別な一族の血を引くのだと囁いた」
―― 私は、選ばれた種族なの。
「亜利栖は、自分を輪姦した男達を憎み、そんな男に媚びを売る女も憎んだ。その憎悪が藤姫によって蘇り、芹霞が大切にする坊も登場し…とりわけ坊には更に意味ある役目だったろうが、あんなゲームの形となり、呪詛化した」
呪い。
確かにこれは――
亜利栖の呪詛だったのかも知れない。
原案は亜利栖。
実行者は藤姫。
ならば…亜利栖の弟は?
「弟の充は、御階堂に引き取られるも、分家で散々痛い目に会い、更には学校では暴力を振るわれていた日々。
そこに芹霞が接触し、恋情故に芹霞と共に居る坊を真似て変貌した。
そして煌のような用心棒と、玲のような電脳世界の従事者と、桜のような動ける配下を得たが――結果は上手くいかなかった」
御階堂充というのは愚かだと思う。
信頼という心の結びつきがない関係で、私達に対抗するなど。
真似事は…真実とはなりえない。
「充を持ち出したのは元老院だ。藤姫が完全復活するための時間稼ぎと、とりあえずの坊への攪乱を兼ねた牽制だ。
誰もが充に何の期待も抱いてはいない。充も薄々ながらそれを感じ取り、だから反対に利用しようとしたが、アオすら懐柔出来ず、勝手に暴走し……裏目に出た。
所詮度量がなかったのだ。もう使い道はない」
緋狭様はばっさりと切り捨てた。
「陽斗の立ち位置はなんだよ?」
煌の問いに、緋狭様は少し目を伏せた。