ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
「あははははは!! この場所に誘ったのは、パスワード解除だけじゃないよ、レイクン。既に用意していたんだよ、黒の書の力を解放する儀式を、この建物の地下の部分にさッ!!」
途端、ぐらぐらと建物が激しく揺れた。
器財が悲鳴を上げて崩れ落ちる。
「うふふふ。
貰うぞ、血染め石。
――時は来た」
「させねえッ!!」
陽斗の鉤爪は、氷皇の足で制される。
「そろそろ、君も逝くかい? 皆揃って闇の底に」
陽斗の呻き声が聞こえる。
僕は本能的に芹霞を抱きしめた。
「玲くん……」
芹霞が不安げな顔で僕を見上げる。
「僕は……ハアッ、ハアッ、君を……1人にしないからね?」
建物が崩れる。
「ほもる・あたなとす・ないうぇ・ずむくろす……」
僕の結界も無効化される。
僕の力は役に立たない。
駄目か。
駄目なのか、今の僕の力では。
せめて月長石が、守護石があれば……。
ああ、僕は――。
芹霞を守れないのか。
守りたい。
僕の芹霞を。
僕は変わったはずだ。
弥生ちゃんの家の僕とは、違うはずなんだ。