ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~


緋狭姉から習ったかも知れねえが、覚えちゃいねえ。


元より俺の身体は、怪我なんか放っておけば治ってしまうし、櫂には玲がいたから俺が回復させる必要性を感じていなかったし。


多分――

想起出来る程の、具体的な想像力が俺にはないんだ。


結界は張れても、所詮外部からの防御だ。

内部に居る玲は護れねえ。


だとしたら……。


なあ、緋狭姉、聞こえているだろ?


俺、あんたに頼るしか術ねえんだよ。

俺、玲を助けたいんだ。


回復なんて基本事項だから、攻撃技の見本集みたいなあの過去の幻影に、取り入れてなかったんだろ?


ヒントだけでもいいから教えてくれよ。



しかし――返答はねえ。




「僕は……櫂……芹霞……」



何かごちゃごちゃ言って俺の集中力を乱し、俺の制止を振り切って櫂の元に行こうとする玲のその白い頬に、俺は苛立って一発――拳を入れた。


「お前は黙って寝てろッ!!!」


初めてか俺、玲に手を上げたの。


――っていうか、玲に拳が入れたこと自体凄いことで。


多分、それ程玲はおかしかったんだろうけど。


矜持を傷つけられたらしい玲が、

本能的な嫌悪の情を俺に見せた時、




「きゃああああッ!!!」




芹霞の声に俺達は振り返った。




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