ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~




「きゃあああああああ!!!」



あまりに突然の不意打ちに、

思い切り悲鳴をあげて混乱するあたしに、



「これくらいのご褒美、いいよな?」


一瞬だけ。

何処かに目を向けて…そして視線をあたしに戻した陽斗は、あたしの後頭部に乱暴に手を回し――


「んんんッ!?」


今度は覆いかぶさるように斜めから、あたしに口付けた。


あたしは吃驚して、固まってしまう。


動くことを躊躇っているような、ただ唇を押し付けるだけのものだったけれど。


でも微かに震えているようにも思えて。



時間にしては数秒。


そして名残惜しそうに離れた唇は、



"好きだ"



そう――


声なくして、形だけで紡がれた…ような気がした。


あくまで、"気がした"だけに留まる、些細な動き。


陽斗の唇は、それ以上…動くことはなかった。



金の瞳に見つめられる。


切なげに揺れるその瞳は、一切の闇の曇りなく澄み切っていた。


何かを吹っ切ったような。

何かを覚悟したような。



「お前に会えてよかった……」


そう陽斗はふわりと綺麗に微笑むと、あたしを強く抱きしめ――


「陽斗!!?」


身体を離すと同時に、空高く飛んだんだ。



嫌な予感がした。


今生の別れでもないはずなのに。


もう会えなくなってしまうような…そんな不吉な予感が。





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