ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~


やがて――。


衝撃音が大きくなり、陽斗のぎゃはぎゃはがそれに交わった時、煌が項垂れた玲くんを片手で支えるように現れた。


最後に見た時よりも玲くんの光は弱々しくなっており、玲くん自身もぐったりとしている。


体調がいいのか悪いのかは判断つかなかったけれど、少なくとも光り輝いていた時の得も知れぬ危機感はなさそうだ。


更に。

玲くんの光を覆うようにまた新たな光が――橙色とも赤色とも言えるような、赤色系の光の膜が作られていた。


玲くんの電磁波の力ほど派手さはないけれど、素人の目にも色さえ認識出来る程凄いエネルギーの檻は――煌の結界?


馬鹿の1つ覚えのように、結界という単語しかあたしは思い浮かべれないんだけれども。


多分、そうだ。

ワンコは、結界まで作れるらしい。

スーパーミラクルワンコだ。


煌の結界の中で、玲くんはこれ以上悪くならないまでも、良くもなっていない状態だ。


時間制限(タイムリミット)を、結界が引き延ばしているだけなのかもしれない。


玲くんを回復させないといけない必要性は……まだある。



「……よう」



気まずい――わけでもないけれど、真っ赤な顔をして目だけそらして声をかけられれば、あたしだって急に気恥ずかしくなるもの。

直前までそんなこと考えてなかった訳だし、十分な不意打ちだ。


「よう」


あたしまで同じ…ぶっきらぼうな返事になってしまう。

ああ、引き摺るもんなんだな、ちゅうって。


そう思った時――


「ぐえええええ!!!」


煌が変な声を出した。


「玲~ッ!!! 喧嘩っ早いの俺以上じゃねえかッ!!?」


何と!! 

玲くんは動いていた。


今まで目を瞑ってぐったりしていた筈の玲くんが、冷たい眼差しを煌に向けて、奴の首を締め上げていたんだ。


両手で。

思い切り。


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