ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~


「玲……殺す気か~~ッッ!!!?」


奴の顔色が…紫色になりつつある。


「玲くん、動いちゃ駄目!!!」


あたしは慌てて、玲くん抑止に駆け寄ると、


「僕の……芹霞」


にっこり微笑んで、両手を広げてあたしを優しく胸に抱いた。


奴は…簡単に"ぽい"された。


今にも儚げに消え入りそうな…白い王子様は、ワンコの興味はなくなってしまったらしい。


「可愛い…僕の…芹霞」


玲くんは…自分の頬を、あたしの頬にすりすりさせて、嬉しそうに微笑んだ。


それとは対照的に…その弱々しく乱雑な息遣いと、凍るような手と頬の冷たさにあたしはぞっとする。


「ん……可愛い…」


それでも…

どうして玲くん…。


…………。


「玲止めろ~、変な色気をだすなッ!!

芹霞が…ぶっ倒れる!!!」


煌が両手であたしと玲くんを引き離して騒いだ。


すると玲くんはまたぐったりと項垂れ、あたしの方に倒れ込んできた。


「きゃあああ、玲くん~!!?」


あたしは慌てて両手で玲くんを支えたが、煌は深い溜息をつくとその身体を片手で抱いた。


「完全無意識だ。先刻から頻繁に意識とばしやがる。行くぞ、芹霞ッ!! ここでこうしていても埓あかね。一刻も早く玲を連れていかねえと、本当にこいつやべえぞ」


あたしは頷いて煌に従いながら、そっと視線を向けた。


大きな音がする場所に。



見えない。

漆黒色も金色も青色も。



正直、少しでも近くで見守りたい程、心配で心配で仕方がないけれど…足手纏いだけは絶対嫌だ。



だとしたら。

あたしに出来ることは――


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